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涼水十選

柿田川湧水群

清水町伏見

永く永く誇りたい、街のなかのオアシス
柿田川湧水群

駿東郡清水町を東西に横切る国道一号線の南にある柿田川湧水公園に入ると、水の流れる音、そよ風に揺られる木の陰のゆらめき。そして鳥たちの鳴き声だけが聴こえる世界。すぐ側を交通量の多い国道が走っており、土日ともなると近隣の大型ショッピングセンターに訪れる人たちでごった返すというのに、清涼感のある空気を感じます。
当然のことながら柿田川湧水公園は静岡県内のみならず全国的にも有名な場所として広く知られていますね。
いわずと知れたこの場所も涼しいスポットとして自信を持って紹介できる場所のひとつ。柿田川の涼しさの秘密は、まずその透明度の高い湧水。富士山に降った雪や雨が地下に浸透し、この地から大量に湧き出ています。通年で水温が15℃と安定しているのがひとつの特徴です。
そして川底の砂を吹き上げ、勢いのよいものから小ぶりなものまで涼を感じさせるビジュアルで涼しさを届けてくれる「わき間」と呼ばれる湧水源。柿田川湧水群と聴いて容易にイメージできる、まさにボコボコと湧いている”あの“場所です。この「わき間」、川の上流から中流までで様々な場所で観察することができてしまいます。

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普通、川の上流と言えば、山の奥の奥。人が足を踏み入れられないような場所にあるのが常ですが、この湧水群の場合、街のなかに突如として現われる十数ヶ所もある「わき間」から一日110万トン(※1)にも登る水が湧き出ているため、すぐに柿田川という川幅30メートル、一番広いところで川幅100メートルにもおよぶ川となっているんです。このおおらかで豊かな流れは1.2キロメートル先の下流で狩野川に合流するため、日本で一番短い一級河川ということはあまり知られていない事実かもしれません。

さらに涼しさの秘密は公園内にいくつもの木々が植えられているため、暑い夏の陽射しを遮り、湧水の涼しさをよりいっそう引き立たせてくれるんですよね。

涼を感じているのは私たちだけではなく、全国でも唯一自生が見られる、水質の変化に大変敏感な水生植物ミシマバイカモや渓流の翡翠と呼ばれるカワセミ。清流の代名詞ともいえるアユやアマゴなどの魚たちも柿田川の自然を堪能しています。5月中旬からはゲンジボタルも光のダンスで私たちを涼しく魅了してくれます。このような動植物も暮らしていることこそが柿田川の自然の恵みを体現しているのではないでしょうか。

今回柿田川湧水群の魅力を紹介してくれたのが、この地の自然を保護している公益財団法人柿田川みどりのトラストの渡辺さん。

実は涼を感じることのできる場所としての柿田川湧水群の歴史はそう長いものではありません。今でこそ、環境庁認定の「名水百選」に静岡県で唯一、そして「21世紀に残したい日本の自然百選」にも選出されているばかりか、平成23年5月には国の天然記念物にも認定されていますが、高度経済成長時代には製紙工場の排水が流れ込んだり樹齢百年を超える樹木が伐採されるなど、涼しげな場所というには程遠い姿だったそうです。今の自然溢れる柿田川公園の姿からは想像もつかないですよね。

例えば、第二展望台にある、あの水の青さにひきこまれそうになる深くて神秘的な円筒で囲まれたわき間。これは当時の製紙工場の取水管の名残なんです。また遊歩道を歩いて行くとこれまた製紙工場の井戸の名残が二つ並んでいます。ここからも清冽な水が沸いています。柿田川湧水の不遇の時を象徴する工業用水の取水口からもいまもこんこんと湧き出すその様は、どこか哀愁さえ感じる湧水群の知られざる秘密といえるかもしれません。

(財)柿田川みどりのトラスト 取材・撮影協力
(財)柿田川みどりのトラスト
駿東郡清水町伏見766
TEL.055-975-5454

かけがえのない自然を守っていくために、現在の(財)柿田川みどりのトラスト会長である漆畑信昭さんをはじめ地元の有志十数名が立ち上がり、清水町の協力や理解を得ながら柿田川の流域の土地の買い上げや、川の中の清掃、観察や保護など地道な活動によって環境が整備されてきました。
渡辺さんによると「それでもまだ私たちが子どものころ、無邪気に湧水の中で泳いでいた頃の姿には程遠いけどね。環境の保護はもちろんだし、子供たちにこの自然の有り難さを伝えられるように自然観察会なども開催しています。動植物のサンクチュアリとしてのこの自然、この涼しい場所ですから、永く永く残したいですものね」と教えてくれました。

柿田川の湧水の中で泳いだことがあるなんてうらやましい!そして地道に活動されることに脱帽のひとことです。
「昔も今と変わらず水が冷たくてね。5分も入っていられないくらいだったけど、それでも元気に泳いでいたよね」
今では公園内に親水広場が整備されておりこちらで水に親しむことができます。広場でも川岸から水が湧き出ており、夏にはキッズで賑わっています。存分に水と親しめるスポットとあって子どもだけでなく、大人も足を冷たい湧水につけてまさに涼を体感することができるのでタオルを持ってお出かけしてみてください。

観光地としても有名となっている柿田川湧水群。その涼を感じに出かけるのはこの地域にお住まいの方ならオーソドックスなことかもしれません。柿田川湧水の表向きの涼しさをただ感じるだけでなく、自然のありがたみやその保全活動の大切さも存分に感じて欲しい。涼みにいくだけではなく、この涼しさを残していけるように、貴重な魅力であることを再発見してもらえたら、きっと柿田川も湧水や木立の影でみなさんを涼しく迎えてくれます。
※1)一日の湧水量は日によって変化します。昔は140万トンもの水が湧き出していたのだそうです。

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