TOP > 熟成の味 > 糀
糀写真糀写真糀写真糀写真

熟成の味

糀 KOUZI/こうじ

伝統の味をつかさどる「こうじ」

穀物に咲く日本の国菌

一昔前。おばあちゃんが造った自家製の味噌が各家庭にありました。女性たちが半日がかりで大豆を茹で、こうじや塩などと混ぜ合わせて味噌をつくっていたあの光景。容器に詰められた味噌は家の物置や床下に入れられ、ゆっくりとゆっくりと熟成し、それぞれの家庭の味、いわゆるみそ汁の味を決める味噌になっていきます。
味噌や醤油、日本酒など日本古来の多くの伝統食品には「発酵」という伝統的な技術が使われてきました。その主役となるのが「こうじ」と呼ばれるカビの一種。こうじとは、蒸した米や麦などの穀物にカビの種をまき繁殖させたもの。こうじが『麹・糀』と花と関連性の深い字で現されるのは、穀物のポテンシャルを花開かせるように拡げるためではと想像してしまいます。日本の食との関係の深さからこうじ菌は、日本の国菌と呼ばれています。
清水町伏見で国産の素材にこだわり、一貫した手造りにこだわる創業百余年のこうじ屋、「板倉糀製造所」があります。
清水町はその水の美しさ空気のきれいさ、そして穀倉地帯だったことからこうじ造りが伝統産業でした。その昔、京都から来た旅の僧が宿泊のお礼にとこうじ製造の秘伝を授けたと伝えられ、最盛期には7軒のこうじ製造所と、販売を専門とした80名を数える売り子さんがいらっしゃったそうです。
今では清水町のこうじ屋は、板倉さんを含めて3軒のみ。三代目となるご主人は「本物にこだわれば時間も手間も掛かる。大量生産はできないので、商売を考えると大変なことは多い。だからこうじ屋も減ってきているね。それでも私たちは日本の伝統を伝え、安心で安全な食を届けたいと思っているんです」と教えてくれました。
その強い想いから、ただこうじを販売するだけではなく、こうじを使った味噌や甘酒なども製造し、非常に安価で解説書つきの「味噌作りセット」も用意してくれています。昔は家庭でも行っていた味噌づくりなどに触れる機会のない若い世代にも大変人気なんだとか。
モノアル編集部でもこのセットを利用して味噌づくりにチャレンジしてみましたが、意外にも簡単にできるもの。熟成の時間を経て、美味しい味噌ができるのを今から楽しみにしています。

時間をかけて造られる深い味わい

目には見えないけれどこうじは微生物。味噌や醤油などの製品のなかでも生きているのです。こうじを使った製品で、白いものが浮いている場合がありますが、常に発酵が繰り返されている証であり、丁寧に取り除いてあげれば製品の使用には問題がありません。それを知らない現代の人たちは「味噌が腐ってしまった」「醤油が傷んでしまった」と勘違いし、嫌われる傾向にあるのはとても残念なことです。スーパーで見かける味噌などで白いものが浮くのを見ることがないのは防腐剤などでこうじの働きを止めて、発酵を停止させてしまうため。見た目には「キレイ」なのですが、味噌本来の味を損ねていることにほかならないのです。
ちいさなちいさなこうじが長い時間をかけて、深い味わいを作り上げてくれる日本に伝わる発酵食品。本当の意味での家庭的で伝統的な味わいを今一度見直してみようではありませんか。

取材協力/板倉こうじ製造所

醤油 糀 豚肉 ワイン
熟成料理を嗜む。 熟成料理を食べることのできるお店情報